夫が内緒で借金をしていた、親の事業がうまくいっていない、成人した子がカードローンを返せなくなった——家族の借金を知ったとき、真っ先に頭をよぎるのが「この家を売って返さなければいけないのか」という不安です。
結論から言うと、家族の借金を家族が返す義務は原則としてありません。配偶者でも親子でも、借りた本人だけが返済義務を負います。ただし連帯保証人になっている・家が担保に入っている・家が共有名義・借金をした親が亡くなったの4つのどれかに当てはまると、家に影響が出ます。
この記事では、4つの例外ごとに家がどうなるのか、相続放棄の3か月の期限、家族が債務整理をするときの家の扱い、そして本当に売ると決めたときの進め方を、民法などの条文をもとに整理します。
この記事を読むとわかること
- 配偶者・親・子の借金を返す義務がない理由と、例外の4パターン
- 連帯保証人になっている場合に家を売る必要が出る仕組み
- 共有名義の家で家族の持分だけが差し押さえられたときの対処
- 親の借金を相続しないための相続放棄と3か月の期限
- 家族が任意整理・個人再生・自己破産をするときの家の扱い
この記事の結論忙しい方はここだけ
- 借金は借りた本人だけの債務です。民法762条により夫婦でも財産は別々で、自分名義の家が配偶者の借金で差し押さえられることは原則ありません。
- 例外は保証人・担保・共有名義・相続の4つ。連帯保証人は本人と同じ責任を負い、本人が自己破産して免責されても保証人への請求は残ります。
- 共有名義の家では、借金をした家族の持分だけが差し押さえられ、競売にかけられることがあります。あなたの持分は差押えの対象外です。
- 親の借金は相続すると引き継ぎますが、相続を知った時から3か月以内に家庭裁判所へ相続放棄を申述すれば引き継ぎません(収入印紙800円)。その場合、実家も相続できません。
- 家族の個人再生では、要件を満たせば住宅ローン特則で家を残せる可能性があります。自己破産では本人名義の家は破産管財人が処分しますが、家族名義の財産は処分されません。
家族の借金で家を売る必要はある?返済義務は原則なし
配偶者・親・子の借金でも、返済義務を負うのは借りた本人だけです。保証人・担保・共有名義・相続のどれにも当たらなければ、家族の借金のために家を売る必要はありません。
「家族なのだから一緒に返すのが当然」と考えてしまいがちですが、法律上の返済義務は契約の当事者に生じます。お金を借りる契約をしたのが夫なら夫、父なら父だけが債務者です。
借金は借りた本人だけの債務
貸金業者や金融機関が返済を求めることができるのは、原則として契約の当事者である債務者(連帯債務者を含む)と、保証契約を結んだ保証人です。同居している家族であっても、契約をしていない人に返済を求める根拠は原則ありません。
もし家族というだけで返済を迫られたり、自宅を売るよう求められたりしたら、その場で応じる必要はありません。まず自分が何かの書類に署名していないかを確認し、心当たりがなければ弁護士や後述の法テラスに相談してください。
夫婦でも財産は別々|日常家事債務だけは例外
民法762条は、夫婦の一方が婚姻前から持っている財産と、婚姻中に自分の名義で得た財産を、その人の「特有財産」と定めています。つまり妻名義の家は妻の財産であり、夫の借金の返済に充てられることはありません。
例外が民法761条の日常家事債務です。夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と契約をしたときは、もう一方も連帯して責任を負います。どこまでが「日常の家事」に当たるかは個別に判断されるため、生活費のための借入れなどに心当たりがあれば専門家に確認してください。
夫婦の共同生活を営むうえで通常必要な取引から生じた債務のこと。民法761条により、夫婦の一方が負った分でも、もう一方が連帯して責任を負います。
家に影響が出る4つのパターン
原則は「返さなくてよい」ですが、次の4つのどれかに当てはまると、家族の借金が家に直接影響します。自分がどれに当たるかで、取るべき行動がまったく変わります。
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| あなたの状況 | あなたに返済義務は? | 家への影響 | 根拠・確認先 |
|---|---|---|---|
| どれにも当たらない | なし | なし(自分名義の家は対象外) | 民法762条(夫婦別産制) |
| 保証人・連帯保証人 | あり(本人が払わないとき) | 払えなければ家が差し押さえられうる | 民法446条・454条/保証契約書 |
| 家が借金の担保(抵当権) | なし(ただし家は失いうる) | 返済が止まると競売 | 民法369条/登記事項証明書 |
| 家が借金した家族と共有名義 | なし | 家族の持分だけ差押え・競売 | 民事執行法43条2項/登記事項証明書 |
| 借金をした親が亡くなった | 相続すればあり | 相続放棄なら実家も相続しない | 民法896条・915条・939条 |
※住宅ローンの連帯債務者・ペアローンの当事者になっている場合は、その住宅ローンについて自分も債務者です。
- 契約書を確認保証人として署名していないか
- 登記を確認家の名義・持分・抵当権
- 借金の本人は存命か亡くなっていれば相続の問題
- 当てはまる例外ごとに対処期限があるものから先に
借金した家族の名義の家に住んでいる場合
上の表は「自分の家」への影響です。反対に、親や配偶者など借金をした本人の名義の家に同居している場合は、あなたに返済義務がなくても、その家は本人の財産として差押え・競売の対象になります。
競売で買受人が代金を納めると、執行裁判所は買受人の申立てにより、債務者や不動産を占有している人に家の引渡しを命じることができます(民事執行法第83条)。同居の家族も、買受人に対抗できる権利(賃貸借など)が無ければ退去を求められる立場です。住み続けたい場合は、競売になる前に、家族が家を買い取る任意売却やリースバックを含めて、借金をした本人・債権者と話し合う必要があります。
連帯保証人になっている場合|本人と同じ責任を負う
連帯保証人は、本人が払わなければいきなり全額を請求されても拒めない立場です。自分の預金で払えなければ、自宅の売却を考える場面が出てきます。
家族の借金で家を売る必要が最も現実的に生じるのが、このパターンです。親の事業資金、子の奨学金や車のローン、配偶者の借入れなどで、保証人の欄に署名した覚えがないか確認してください。
保証契約は書面(または電磁的記録)でしなければ効力を生じないと民法446条2項・3項で定められているため、契約書か電子契約の記録が必ず残っています。
保証人と連帯保証人の違い
通常の保証人には、「まず本人に請求してほしい」と言える催告の抗弁(民法452条)と、「本人に払える財産があるから先にそちらから取り立ててほしい」と言える検索の抗弁(民法453条)があります。
ところが民法454条により、連帯保証人にはこの2つの権利がありません。契約書に「連帯保証人」とあれば、こちらに当たります。本人が滞納すれば、債権者は本人を飛ばして連帯保証人に直接請求できます。
本人が自己破産しても保証人の責任は残る
「本人が自己破産すれば借金はなくなる」と考えるのは危険です。破産法253条2項は、免責許可の決定が保証人に対する債権者の権利に影響を及ぼさないと定めています。本人の返済義務が免除されても、保証人への請求はそのまま残るのです。
個人再生でも同じで、民事再生法177条2項により、再生計画は保証人に対する権利に影響しません。家族が債務整理を考え始めたら、その借金に自分が保証人として入っていないかを最初に確かめてください。
父の事業借入1,000万円の連帯保証人で、父が自己破産した場合
- 父の免責が確定しても、保証人の子には残額1,000万円(+利息・遅延損害金)を請求されうる
- 子の自宅:売却見込み額2,500万円、住宅ローン残高1,200万円
- → 売却代金からローンを完済した残りは1,300万円(仲介手数料・税金など売却費用を引く前)
この場合、自宅を売れば保証債務を払える計算になりますが、売却費用を引くと手残りはさらに減ります。売るかどうかを決める前に、査定額と諸費用を確かめておくことが欠かせません。
請求が来る前に確認できること
本人から頼まれて保証人になった場合、民法458条の2により、債権者に返済状況や残額の情報提供を請求できます。さらに本人が分割払いの権利(期限の利益)を失ったときは、債権者は知った時から2か月以内に保証人へ通知しなければならず、通知が遅れればその間の遅延損害金は保証人に請求できません(民法458条の3)。
- 保証契約書の写しを探し、保証の種類(連帯保証か)と保証の範囲を確認する
- 継続的な取引の保証(根保証)なら、極度額(上限額)が書かれているか確認する(個人の根保証は極度額の定めがないと無効:民法465条の2)
- 債権者に残額と滞納の有無を問い合わせる(民法458条の2)
- 自宅を売った場合の手残りを、査定額とローン残高から試算しておく
自分の家が家族の借金の担保になっている場合
自分の家に家族の借金のための抵当権が付いていると、返済義務はなくても返済が止まれば家が競売にかけられます。登記事項証明書で抵当権の有無を確認してください。
親の事業資金を借りるときに子の家を担保に入れた、夫の借入れのために妻名義の土地に抵当権を設定した——このように、他人の借金のために自分の不動産を担保に出した人を物上保証人と呼びます。
他人の債務のために、自分の財産に抵当権などの担保を設定した人。借金そのものの返済義務はありませんが、担保に出した財産は失う可能性があります。
返済が止まると競売にかけられる
民法369条により、抵当権者は担保に供された不動産から、他の債権者に先立って弁済を受けることができます。債務者が債務者自身の不動産を担保にした場合だけでなく、第三者が担保に供した不動産も同じ扱いです。
つまり家族の返済が滞れば、あなたが何も借りていなくても家は競売の対象になります。競売よりも高く売れる可能性がある方法として、債権者の同意を得て売る任意売却があります。流れと期限は「任意売却の流れと期限」で詳しく解説しています。
なお、担保に出した家を競売で失ったり、代わりに返済したりした物上保証人は、借金をした本人に対して求償権(立て替えた分を返すよう求める権利)を持ちます(民法372条で準用する351条)。
登記事項証明書で抵当権を確認する
抵当権は不動産登記法3条により登記できる権利の1つで、設定されていれば登記に記録されています。自分の家に誰のための抵当権が付いているか、法務局で登記事項証明書を取って確認してください。
| 請求方法 | 手数料(1通) |
|---|---|
| 登記所の窓口で請求 | 600円 |
| オンライン請求・郵送で受け取り | 520円 |
| オンライン請求・窓口で受け取り | 490円 |
※法務局のオンライン請求の案内による(2026年10月時点)。
住宅ローンの抵当権だと思っていたら、実は家族の事業資金の根抵当権も付いていた、ということもあります。債権者名と債務者名まで確認してください。
共有名義の家は家族の持分だけが差し押さえられる
夫婦や親子の共有名義の家では、債権者は借金をした家族の持分だけを差し押さえて競売にかけられます。あなたの持分は対象外ですが、見知らぬ第三者と共有になるおそれがあります。
夫婦で2分の1ずつ持っている自宅、親子で共有している二世帯住宅など、家族の一人が借金を返せなくなったときに影響が出やすいのが共有名義の家です。
差押えの対象は借金をした人の持分だけ
民事執行法43条2項は、金銭債権の強制執行について不動産の共有持分を不動産とみなすと定めています。そのため債権者は、借金をした家族の持分だけを強制競売にかけることができ、その場合は差押えの登記がされます(同法48条)。
一方で、借金をしていないあなたの持分は差押えの対象になりません。家全体が取り上げられるわけではない点は、まず押さえておいてください。
持分が競売されると他人と共有になる
競売で持分を買い受けた人は、あなたと家を共有する共有者になります。共有者は共有物の全部を持分に応じて使用でき(民法249条)、協議が調わなければ裁判所に共有物の分割を請求できます(民法258条)。分割の方法によっては、家全体の競売が命じられることもあります。
共有物分割請求の流れと費用は「共有物分割請求とは?費用・期間と競売リスク」で解説しています。そうなる前に取れる手は次のとおりです。
- 家族の借金を代わりに返済して差押えを外してもらう(第三者の弁済:民法474条。条件があるため事前に弁護士へ確認)
- 借金をした家族の持分を、あなたが適正な価格で買い取る
- 共有者全員の同意を得て家全体を売り、代金から借金を返す
- 差押え後なら、債権者・弁護士と相談しながら任意の売却で解決する
家全体を売るには共有者全員の同意が要る
- 共有物全体の売却には共有者全員の同意が必要と解されています(法務省 法制審議会部会資料)
- 自分の持分だけを売ることもできますが、持分だけを買う相手は限られるため、価格は事前に査定で確認してください
差押えを避けるための名義変更は取り消されうる
「差し押さえられる前に、夫の持分を妻の名義に移しておこう」と考える方もいますが、注意が必要です。民法424条の詐害行為取消請求により、債務者が債権者を害することを知って行った財産の移転は、裁判所に取り消されることがあります。
名義を動かすなら、適正な対価を払う持分の買取として、弁護士に相談したうえで進めてください。無償や極端に安い価格での名義移転は避けるのが鉄則です。
- 差し押さえられるのは借金をした家族の持分だけ。あなたの持分は残る
- 持分が競売されると第三者と共有になり、最終的に家全体が競売になるおそれ
- 名義を移して逃れる方法は取り消されうる。対価を払う買取か全体売却で解決する
その家、今いくらで売れるか知っていますか?
持ち続けるか、手放すか。判断の前提になるのは「現在の価格」です。
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親の借金は相続放棄で引き継がない|期限は3か月
親が借金を残して亡くなった場合、相続を知った時から3か月以内に家庭裁判所へ相続放棄を申述すれば借金を引き継ぎません。ただし実家などのプラスの財産も一緒に手放すことになります。
親が生きている間は、子に親の借金を返す義務はありません。問題になるのは親が亡くなったときです。相続によって、親の財産だけでなく借金も子に移るからです。
相続すると借金も引き継ぐ
民法896条は、相続人は相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定めています。実家や預金と一緒に、借金や保証債務も引き継ぐということです。
相続人には、すべてを引き継ぐ単純承認、プラスの財産の範囲でだけ借金を払う限定承認、何も引き継がない相続放棄の3つの選択肢があります。何もしないまま期限を過ぎると、単純承認したものとみなされます(民法921条2号)。
実家1,500万円・預金200万円・借金2,500万円を子1人が相続する場合
- 単純承認:プラス1,700万円 − 借金2,500万円 → 800万円を自分の財産から払う必要
- 相続放棄:借金は引き継がない(実家と預金も受け取らない)→ 差し引き0円
- 限定承認:借金はプラスの財産1,700万円の範囲でだけ払えばよい → 自分の財産からの持ち出しは0円
借金がプラスの財産を上回るなら、単純承認は損になります。金額が分からないうちに実家や預金に手を付けないことが大切です。
相続放棄の期限・申述先・費用
民法915条により、相続放棄は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にしなければなりません。数え始めは亡くなった日ではなく、自分が相続人になったと知った日です。
手続きは、裁判所の「相続の放棄の申述」の案内によると、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に申述書を出し、費用は申述人1人につき収入印紙800円分と連絡用の郵便切手です。借金の全体が3か月で調べきれないときは、期間内に相続の承認又は放棄の期間の伸長を申し立てることができます。
- 親が亡くなる相続の開始。借金も相続財産に含まれる
- 相続人になったと知るここから3か月を数える(民法915条)
- 財産と借金を調べる足りなければ期間の伸長を申し立てる
- 知った時から3か月放棄・限定承認の申述期限。過ぎると単純承認とみなされる
相続財産の全部または一部を処分すると、単純承認したものとみなされます(民法921条1号)。放棄を考えているうちは、実家を売る・預金を引き出して使うといった行為をしないでください。
相続放棄すると実家も手放すことになる
民法939条により、相続放棄をした人は初めから相続人とならなかったものとみなされます。借金だけを放棄して実家だけを受け取ることはできません。
また、子が全員放棄すると、相続権は親の直系尊属(祖父母など)、それもいなければ親の兄弟姉妹へと移ります(民法889条)。放棄したら、次の順位の親族にも早めに知らせておくと、親族間のトラブルを防げます。
さらに、放棄の時に実家を現に占有していた人は、次の相続人などに引き渡すまで保存義務を負います(民法940条)。空き家の管理が残るケースは「相続放棄した空き家の管理義務と費用」で詳しく解説しています。
実家を残したいなら限定承認という選択肢
借金があっても実家だけは残したい場合に検討されるのが限定承認です。相続財産の目録を作って、3か月以内に家庭裁判所へ申述します(民法924条)。ただし相続人が複数いるときは、共同相続人の全員でしかできません(民法923条)。
限定承認では、借金を払うために相続財産を売る必要があるとき、原則は競売です。ただし民法932条ただし書により、家庭裁判所が選んだ鑑定人の評価額を払えば競売を止められます。実家の評価額を自分で用意できれば、実家を手元に残せるということです。
単純承認して実家を相続した場合は、相続の開始と取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があります(相続登記の義務化)。
家族が債務整理するときの家の扱い
家族が債務整理をするとき、家への影響は「誰の名義の家か」と「どの手続きか」で決まります。家族名義の家なら原則として影響せず、本人名義なら個人再生の住宅ローン特則で残せる可能性があります。
債務整理には大きく任意整理・個人再生・自己破産の3つがあります。家族が借金を整理すること自体は、あなたの家を守るうえでもむしろ前向きな選択肢になりえます。
任意整理・個人再生・自己破産の違い
法テラスの案内では、任意整理は裁判所などの公的機関を利用せず、当事者が話し合って支払額や支払方法を合意する手続きです。個人再生は裁判所を通じて借金を減らし、減額後の金額を原則3年で分割して返す手続きです。
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| 手続き | 裁判所 | 本人名義の家 | 家族名義の家 | 保証人への影響 |
|---|---|---|---|---|
| 任意整理 | 使わない | 交渉の対象・内容は債権者との合意しだい | 影響なし | 合意内容しだい(保証人付きの借金は事前に専門家へ確認) |
| 個人再生 | 使う | 住宅ローン特則の要件を満たせば残せる | 影響なし | 保証人の責任は残る(民事再生法177条2項) |
| 自己破産 | 使う | 破産管財人が処分する | 影響なし | 保証人の責任は残る(破産法253条2項) |
※住宅ローンも任意整理の対象にできますが、債権者との合意が必要で、延滞が長いと難しくなる場合があります(法テラス)。
個人再生の住宅ローン特則で家を残す
借金をした家族本人の名義の家に住み続けたい場合、個人再生の住宅資金特別条項(住宅ローン特則)が使えるかがポイントです。住宅ローンは従来どおり払い続け、それ以外の借金だけを減額します。
法テラスの案内では、利用条件は住宅ローンで建設・購入した自宅に現に住んでいること、住宅ローン以外の債権者のための抵当権が付いていないことです。民事再生法198条1項ただし書も、住宅に他の担保権があるときは特則を定められないとしています。
夫が住宅ローンのほかに借金600万円を抱え、小規模個人再生をする場合
- 住宅ローン:住宅ローン特則で従来どおり返済を続ける
- 住宅ローン以外の借金600万円の5分の1=120万円(100万円より多い)
- → 計画で返す額は少なくとも120万円。原則3年なら月あたり約3万3,000円
住宅ローンなどを除いた借金の総額が3,000万円以下の場合、再生計画の弁済総額が「基準債権の5分の1または100万円の多いほう」(5分の1が300万円を超えるときは300万円)を下回ると認可されません(民事再生法231条2項4号)。実際の弁済額は、持っている財産の額などによってこれより高くなることがあります。
小規模個人再生は、住宅ローンなどを除いた借金の総額が5,000万円以下で、継続的な収入の見込みがある個人が対象です(民事再生法221条1項)。条文はe-Gov法令検索の民事再生法で確認できます。
自己破産すると本人名義の家は処分される
破産法34条により、破産手続開始の時に破産者が持っている一切の財産は破産財団となり、その管理・処分の権利は裁判所が選任した破産管財人に移ります(同法78条)。本人名義の家は、家族が住んでいても売却の対象です。
一方で、法テラスは自己破産は申立人本人についての手続で、家族の財産が処分されることはないと案内しています。共有名義の家なら処分されるのは本人の持分だけで、あなたが管財人から持分を買い取る相談をする余地もあります。
- 家族名義の家は、家族がどの債務整理をしても原則として影響しない
- 本人名義の家を残したいなら、個人再生の住宅ローン特則の要件を確認
- どの手続きでも、保証人になっている借金は保証人に請求が来る
家を売ると決めたときの進め方
売ると決めたら、期限のある手続き(相続放棄・差押え・競売)を先に確認し、査定額を知ってから売り方を選ぶのが順番です。急ぐなら買取、競売が迫っているなら任意売却も選択肢です。
保証債務を払うため、共有を解消するため、相続した実家を処分するため——家族の借金をきっかけに家を売る理由はさまざまですが、進め方の基本は共通です。
売る前に確認する5つのこと
- 家の名義と持分割合、抵当権・差押えの有無(登記事項証明書)
- 住宅ローンの残高と、売却代金で完済できるか
- 相続が絡む場合、相続放棄の3か月の期限を過ぎていないか・財産に手を付けていないか
- 共有名義なら、共有者全員が売却に同意しているか
- 保証債務・家族の借金の残額と、売却で手元に残る金額の見込み
仲介・買取・任意売却の使い分け
時間に余裕があり高く売りたいなら仲介、期限が迫っている・持分だけ売りたい・訳あり物件を早く現金化したいなら買取が向いています。住宅ローンなどの残債が売却価格を上回り、競売が迫っているなら、債権者の同意を得る任意売却を検討します。
買取のメリット
- 買い手を探す期間がなく、引渡し時期を決めやすい
- 共有持分や差押え・相続が絡む物件でも相談できる
- 近所に売却を知られにくい
買取のデメリット
- 仲介で売るより価格は低くなりやすい
- 業者によって提示額の差が大きい
- 複数社を比べないと適正価格が分かりにくい
相談先と相談する順番
借金と相続の問題は弁護士・司法書士、売却価格は不動産会社と、相談先が分かれます。お金に余裕がない場合は、法テラスの無料法律相談が使えます。収入と資産が一定基準以下の人が対象で、同じ問題につき3回まで、1回30分無料で相談できます。
- 期限と書類を確認する相続放棄の3か月、差押え・競売の通知の有無、保証契約書と登記事項証明書をそろえる。
- 弁護士・司法書士に相談する返済義務の有無、相続放棄や債務整理の要否を確認する。費用が不安なら法テラスへ。
- 家の査定額を知る売った場合に借金を払えるか、持分を買い取る資金はいくらかを数字で把握する。
- 売り方を決めて売却する仲介・買取・任意売却から、期限と手残りで選ぶ。
家族の借金のために家を売るかどうかは、「返済義務があるか」と「家がいくらで売れるか」の2つが分かってから決めても遅くありません。ただし相続放棄の3か月だけは待ってくれないので、最優先で確認してください。
よくある質問
夫(妻)の借金を理由に、自分名義の家を差し押さえられることはありますか?
自分が保証人になっておらず、家が夫(妻)の借金の担保にも入っていなければ、原則としてありません。民法762条は、夫婦の一方が自分の名義で得た財産をその人の特有財産としています。ただし日常の家事に関する債務は夫婦が連帯して責任を負うため、生活費の支払いなどは注意が必要です。
親が亡くなって3か月以上たってから借金が分かった場合、もう相続放棄はできませんか?
3か月は亡くなった日ではなく、自分のために相続が開始したことを知った時から数えます。個別の事情で扱いが分かれるため、気づいた時点ですぐ弁護士や司法書士に相談してください。
判断がつくまでは、実家を売る・預金を使うなど相続財産を処分する行為は避けてください。
家族が自己破産したら、同居している自分の財産も処分されますか?
法テラスは、自己破産は申立人本人についての手続で、家族の財産が処分されることはないと案内しています。ただし本人名義の家や、共有名義の家の本人の持分は破産管財人が処分します。自分が保証人になっている借金は、本人が免責されても請求が残ります。
共有名義の家で家族の持分が差し押さえられたら、家全体を売るしかありませんか?
必ずしも売る必要はありません。差押えの対象は借金をした家族の持分だけで、あなたの持分は残ります。家族の持分を適正な価格で買い取る方法もありますが、放置すると持分が競売で第三者に渡るおそれがあるため、早めに専門家に相談し査定額も確認してください。
この記事のまとめ
- 配偶者・親・子の借金を返す義務は原則なし。自分名義の家は家族の借金の対象外(民法762条)
- 連帯保証人は本人と同じ責任を負い、本人が自己破産・個人再生しても保証人の責任は残る
- 家が家族の借金の担保なら返済が止まると競売。共有名義なら家族の持分だけが差押え・競売の対象
- 親の借金は、相続を知った時から3か月以内の相続放棄で引き継がない。ただし実家も手放す
- 家族の債務整理では、家族名義の家は影響なし。本人名義は住宅ローン特則で残せる場合がある
家を売るか迷ったら、返済義務の有無を専門家に確かめると同時に、まず家の現在の価格を知ることから始めてください。数字が分かれば、売る・残す・持分を買い取るの判断がしやすくなります。