住宅ローンの返済が遅れ、金融機関から督促状や一括返済の請求が届いた。この先どうなるのか、家はいつ競売にかけられ、いつまで住めるのか——先が見えないことがいちばんの不安だと思います。
結論から言うと、競売は期限の利益の喪失→代位弁済→競売開始決定→現況調査・評価→期間入札・開札→代金納付→明渡しという決まった順番で進みます。そして債権者が競売を確実に取り下げられるのは開札期日の前日までです。この期限から逆算して動けば、任意売却で競売を避ける余地が残ります。
この記事を読むとわかること
- 住宅ローン滞納から競売・明渡しまでの流れと、各段階で届く書類
- 現況調査・期間入札・開札・代金納付それぞれの法律上の期限
- 競売と任意売却で、価格・引越し時期・費用・残債がどう違うか
- 開札期日の前日までに取下げを間に合わせるための逆算スケジュール
この記事の結論忙しい方はここだけ
- 競売は債権者の申立て→競売開始決定(差押登記)→執行官の現況調査・評価→公告→期間入札→開札→売却許可決定→代金納付→明渡しの順に進む
- 公告は入札期間が始まる2週間前まで、代金納付期限は売却許可決定の確定から1か月以内が原則。代金が納付された時点で家の所有権は買受人に移る
- 買受人は代金納付から6か月以内に引渡命令を申し立てられ、退去しなければ強制執行で明け渡すことになる
- 競売を確実に止めるには、債権者が開札期日の前日までに取下書を出す必要がある。任意売却はこの日から逆算して進める
- 保証会社の代位弁済から6か月以内なら、個人再生の住宅資金特別条項で家を残す道もある
競売の流れの全体像|滞納から明渡しまで
競売は「金融機関側の手続き(期限の利益喪失・代位弁済)」と「裁判所の手続き(開始決定〜代金納付)」の二段構えで進み、最後は引渡命令による明渡しで終わります。
不動産の競売は、お金を貸した債権者の申立てによって、裁判所が債務者の不動産を差し押さえて売却し、その代金を債務の返済にあてる手続きです。所有者の意思にかかわらず強制的に売却される点が、通常の売却と根本的に違います。
前半は金融機関、後半は裁判所が進める
住宅ローンの場合、滞納が始まってからすぐ裁判所が動くわけではありません。まず金融機関が督促し、分割返済の約束(期限の利益)を打ち切って一括返済を求め、保証会社が代わりに返済する「代位弁済」を経てから、保証会社などが裁判所に競売を申し立てるのが一般的な流れです。
申立てを受けた裁判所は、競売開始決定を出して家を差し押さえ、執行官の現況調査と評価人の評価をもとに価格を決め、入札にかけます。担保(抵当権)に基づく競売は「担保不動産競売」と呼ばれ、民事執行法が定める手続きで進みます(強制競売の規定の多くが188条で準用されます。以下の条文番号は民事執行法のものです)。
- 滞納・督促金融機関から督促状・催告書
- 期限の利益喪失・代位弁済一括請求→保証会社が肩代わり
- 競売開始決定差押登記・現況調査・評価
- 期間入札・開札開札後は取下げが事実上困難
- 代金納付・明渡し所有権が移り引渡命令へ
段階ごとの期限と届く書類
各段階には法律や裁判所の運用で目安となる期限があります。手元に届いた書類から、自分が今どこにいるかを確認してください。
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| 段階 | 主な出来事・届く書類 | 期限・期間の目安 | 任意売却の余地 |
|---|---|---|---|
| 滞納・督促 | 督促状・催告書 | 金融機関・契約により異なる | 最も選択肢が多い |
| 期限の利益喪失・代位弁済 | 一括返済の請求、代位弁済の通知 | 金融機関・契約により異なる | 十分にある |
| 競売開始決定 | 開始決定正本の送達、差押登記 | 申立て後、裁判所が決定 | あるが時間が限られる |
| 現況調査・評価 | 執行官・評価人の訪問 | 事件ごとに異なる | あるが時間が限られる |
| 期間入札の公告 | 入札期間・開札期日の公告、BITへの掲載 | 入札期間開始の2週間前まで | 開札期日の前日が取下げの期限 |
| 開札・売却許可決定 | 最高価買受申出人の決定 | 売却決定期日は開札から1週間以内が目安(東京地裁は原則20日後など裁判所により異なる) | 落札者等の同意が必要 |
| 代金納付・明渡し | 所有権移転、引渡命令 | 納付は確定から1か月以内、引渡命令の申立ては納付から6か月以内 | なし |
※裁判所の期限は民事執行法・裁判所の公表資料にもとづく原則。実際の日程は事件ごとの通知・公告で確認してください。
全体の期間が人によって違う理由
「滞納から何か月で競売になるか」は一律には決まりません。期限の利益を失うまでの滞納月数はローン契約と金融機関の方針で異なり、裁判所の手続きも物件の状況や裁判所の混み具合で日程が変わるためです。
ネット上の「〇か月で競売」という目安をうのみにせず、届いた書類の日付と、公告に書かれた入札期間・開札期日を基準に考えることが大切です。
- 競売は債権者の申立てで裁判所が強制的に売却する手続き
- 前半は金融機関、後半は裁判所が進め、最後は明渡しで終わる
- 自分の位置は「届いた書類」と「公告の開札期日」で判断する
滞納から代位弁済まで|競売の前に起きること
滞納が続くと分割返済の権利(期限の利益)を失って一括返済を求められ、保証会社が代位弁済すると請求先が保証会社に移ります。ここが競売申立ての直前段階です。
裁判所の手続きが始まる前のこの段階は、まだ選べる手段が多い時期です。返済条件の見直し、任意売却、個人再生など、どの道を選ぶにしても早く動いた人ほど有利になります。
一括請求の前なら返済方法の変更を相談できる
期限の利益を失う前、つまり分割返済の約束が生きているうちは、借入先の金融機関に返済方法の変更(返済期間の延長や、一定期間の返済額の減額など)を相談できます。一括請求を受けた後は、一般的にこうした相談で元の返済に戻すのは難しくなるため、返済が苦しいと感じた時点で連絡するのが基本です。
たとえば住宅金融支援機構は、離職や病気などで返済が難しくなった人向けに、返済期間の延長(最長15年)や、元金の支払いを一時休止して利息のみを払う期間(最長3年)の設定などのメニューを用意しています。申込みは返済中の金融機関で行い、変更後も返済を続けられるかの審査があります。
返済期間を延ばすと毎月の返済額は減りますが、総返済額は増えます。審査の結果、希望どおりに変更できない場合もあります。変更しても返済を続けられる見通しが立たないなら、早めに任意売却や個人再生も並行して検討してください。
期限の利益を失うと一括返済を求められる
住宅ローンは「毎月分割で返せばよい」という約束で借りています。この、期限が来るまで返さなくてよいという債務者の利益を期限の利益といいます。滞納が続くと、ローン契約の定めに従ってこの利益が失われ、残りのローン全額を一括で返すよう請求されます。
支払期限が来るまで返済しなくてよいという債務者側の利益のこと。民法136条は期限を債務者の利益のために定めたものと推定し、137条は破産手続開始の決定などで期限の利益を主張できなくなる場合を定めています。住宅ローンでは、滞納を理由とする喪失はローン契約の条項で定められています。
一度期限の利益を失うと、原則として遅れた分を払うだけでは元の分割返済に戻れません。
影響は返済方法だけにとどまらず、たとえば住宅金融支援機構の【フラット35】で新機構団信に加入している場合、期限の利益の喪失が団信の解約事由に当たり、全額繰上償還請求期限日をもって団信の保障が終了すると機構の任意売却パンフレットに明記されています。
代位弁済で請求先が保証会社に変わる
銀行の住宅ローンの多くは保証会社の保証付きです。一括返済に応じられないと、保証会社が債務者に代わって金融機関へ残額を返済します。これが代位弁済で、以後の請求と競売の申立ては保証会社(またはその委託を受けた債権回収会社)が行います。
代位弁済で借金が消えるわけではありません。返済先が金融機関から保証会社に替わるだけで、保証会社は肩代わりした金額を一括で請求してきます。任意売却の交渉相手もこの時点で保証会社側に移ります。
代位弁済から6か月以内なら個人再生で家を残せる可能性
家に住み続けたい場合の選択肢として、個人再生の「住宅資金特別条項」があります。民事再生法198条2項は、保証会社が保証債務を全部履行した日から6か月を経過する日までに再生手続開始の申立てがされたときは、住宅資金特別条項を定めることができるとしています。
代位弁済が4月1日だった場合の期限
- 保証会社が保証債務を全部履行した日:4月1日
- → 住宅資金特別条項を使うには、初日を数えない一般的な数え方で10月1日までに個人再生の申立てを済ませる必要がある
この期限を過ぎると、代位弁済後の債権について住宅資金特別条項を定める道が閉じます。正確な期限の数え方と利用できるかどうかは、必ず弁護士などの専門家に確認してください。
住宅に住宅ローン以外の担保権(たとえば別の借入れの抵当権)が付いている場合など、住宅資金特別条項を使えないケースもあります(民事再生法198条1項ただし書)。家を残すか手放すかの判断は、代位弁済の通知が届いた段階で早めに相談を始めてください。
競売開始決定から現況調査・評価まで
競売開始決定が出ると家は差し押さえられ、執行官の現況調査と評価人の評価を経て売却基準価額が決まります。差押え後も住み続けることはできます。
裁判所から「担保不動産競売開始決定」の正本が届いたら、裁判所の手続きが正式に始まったということです。ここから先は裁判所のスケジュールで進むため、自分のペースでは止められません。
競売開始決定と差押えの登記
申立てが適法と認められると、裁判所は不動産を差し押さえる旨を宣言する開始決定を行い、裁判所書記官が法務局に「差押」の登記を嘱託します。開始決定の正本は債務者と所有者に送達されます。
差押えの登記がされても、すぐに追い出されるわけではありません。民事執行法46条2項は、差押えは債務者が通常の用法に従って不動産を使用・収益することを妨げないと定めており、代金が納付されるまでは住み続けられます。
執行官の現況調査と評価人の評価
開始決定のあと、裁判所は執行官に家の形状や占有状況などの現況調査を命じます(民事執行法57条1項)。執行官は不動産に立ち入り、住んでいる人に質問したり書類の提示を求めたりでき、必要があれば閉まっている戸を開けるための処分もできます(同条2項・3項)。
あわせて評価人が家を評価し、その結果が評価書にまとめられます。現況調査報告書・評価書・物件明細書の写しは「3点セット」と呼ばれ、裁判所の閲覧室や不動産競売物件情報サイト(BIT)で誰でも見られる状態になります。
現況調査で知っておきたいこと
- 執行官の訪問は裁判所の命令に基づくもので、拒んでも調査は進む
- 室内の写真などが3点セットとしてインターネットで公開される
- 差押債権者が申し立てれば、買受希望者が室内を見学する「内覧」が行われることもある(民事執行法64条の2)
売却基準価額と買受可能価額
裁判所は評価人の評価にもとづいて売却基準価額を定めます(民事執行法60条1項)。入札できる最低ラインは、売却基準価額から2割を差し引いた買受可能価額です(同条3項)。
売却基準価額が2,000万円と決まった場合
- 買受可能価額:2,000万円 −(2,000万円×20%)=1,600万円
- 入札に必要な保証金(通常は売却基準価額の20%):400万円
- → 1,600万円以上の入札があれば、最も高い入札額で売れる
入札が集まらなければ、買受可能価額に近い金額で売れることもあります。いくらで落札されるかを所有者が選ぶことはできません。
なお、買受可能価額で売っても手続費用や優先する債権を払いきれない見込みのときは、差押債権者が一定の対応をしない限り手続きが取り消される「無剰余取消し」という仕組みもあります(民事執行法63条)。
期間入札・開札・代金納付のスケジュール
公告は入札期間開始の2週間前まで、入札期間は東京地裁の例で8日間、売却許可決定の確定後1か月以内に代金が納付されると所有権が移ります。
売却基準価額が決まると、裁判所書記官が売却の方法と日程を定め、競売は入札の段階に入ります。多くの事件で使われるのは「期間入札」です。
公告から入札期間まで
期間入札は、裁判所書記官が定めた期間内に入札を受け付け、後日開札して落札者を決める方法です。売却される不動産は、入札期間が始まる2週間前までに裁判所の掲示場などに公告され、入札期間・開札期日・売却基準価額・買受可能価額などが示されます(BIT「期間入札の公告」)。
入札期間の長さは裁判所が定めます。東京地裁民事執行センターでは通常8日間とされています。公告に書かれた開札期日が、任意売却で競売を止めるための最終目標日になります。
- 公告入札期間開始の2週間前までに掲示・BIT掲載
- 入札期間東京地裁では通常8日間
- 開札期日最高価買受申出人が決まる。取下書はこの前日までに
- 売却決定期日→確定→代金納付決定期日は裁判所により開札の1週間〜20日後程度、納付期限は確定から1か月以内
開札と売却許可決定
入札期間が終わると、公告されていた開札期日に執行官が入札書を開封し、最も高い価格を付けた人が最高価買受申出人に決まります。売却決定期日は通常、開札期日から1週間以内に指定されます(東京地裁の案内では原則20日後とされており、裁判所ごとに運用が異なります)。
売却決定期日に売却許可決定が出て、その決定の公告が掲示された日の翌日から1週間以内に執行抗告がなければ決定は確定します。入札者がいなかった場合は、先着順で買い受けを受け付ける「特別売却」に回ることがあります。
代金納付で所有権が買受人に移る
売却許可決定が確定すると、裁判所書記官は特別な理由がない限り、確定日から1か月以内の日を代金納付期限に定めます。買受人が代金を納付した時点で不動産の所有権は買受人に移り(民事執行法79条)、所有権移転登記は裁判所の嘱託で行われます。
代金納付の時点で、元の所有者は自分の家の所有者ではなくなります。売却代金は配当期日などで債権者に配られ、債権者が1人であるなどの場合に全額を弁済しても余りが出れば、その剰余金は債務者に交付されます(同法84条2項)。
- 公告→入札期間→開札→売却決定期日→確定→代金納付の順に進む
- 開札期日は公告で確認でき、任意売却の最終目標日になる
- 代金納付で所有権が移り、売却代金は債権者への配当にあてられる
競売になる前に、その家がいくらで売れるか知っていますか?
持ち続けるか、手放すか。判断の前提になるのは「現在の価格」です。
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明渡し|代金納付後に住み続けることはできない
買受人は代金納付から6か月以内に引渡命令を申し立てられ、退去しなければ執行官による強制的な明渡しに進みます。
競売で最もつらいのが、明渡しの時期を自分で決められないことです。任意売却なら買主と引渡日を調整できますが、競売では買受人の手続きに合わせて退去することになります。
引渡命令は代金納付から6か月以内
代金を納付した買受人は、裁判所に申し立てて、債務者や占有者に不動産を引き渡すよう命じてもらえます。これが引渡命令で、通常の裁判より簡易な手続きで出されます(民事執行法83条1項)。
申立ての期限は代金納付の日から6か月です(同条2項)。住宅ローンを滞納した元の所有者は、原則として引渡命令の対象になると考えてください。引渡命令は相手方に送達され、1週間以内に執行抗告がなければ確定し、強制執行ができる状態になります。
退去しなければ強制執行になる
引渡命令が出ても自分から退去しない場合、買受人は執行官に明渡しの強制執行を申し立てます。執行官は明渡しの断行予定日を定めて告げ、その日までに任意に明け渡すよう促す明渡しの催告を行い、期日になれば強制的に退去させます。
荷物の運搬費用など強制執行の費用は買受人がいったん予納しますが、強制執行の費用は債務者の負担と定められています(民事執行法42条1項)。退去までの時間も費用も、自分では調整できない状態になるということです。
競売の場合、引越し費用を売却代金から出してもらえる仕組みはありません。任意売却では、住宅金融支援機構のように仲介手数料や抹消登記費用などを売却代金から控除できる場合があり、引渡時期も調整しやすいとされています(詳しくは次の章)。
競売と任意売却の違い|価格・時期・残債・税金
任意売却は通常の売買として売るため、一般的に競売より高値が期待でき、引渡時期も調整しやすい方法です。ただし、どちらの方法でも売却代金で返しきれなかった残債は残ります。
任意売却は、債権者の同意を得て抵当権を外してもらい、通常の不動産売買として家を売る方法です。住宅金融支援機構も、返済の継続が困難になった場合は任意売却を勧めるとして、その理由を公表しています(住宅金融支援機構「融資住宅等の任意売却」)。
比較表:売り方・価格・引渡時期・費用
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| 項目 | 任意売却 | 競売 |
|---|---|---|
| 売り方 | 債権者の同意を得て、通常の売買契約で売る | 裁判所の手続きで入札にかけられる |
| 価格 | 一般的に競売より高値が期待できる | 売却基準価額の8割(買受可能価額)以上で入札により決まる |
| 引渡時期 | 買主・債権者と調整しやすい | 代金納付後、引渡命令・強制執行の日程に従う |
| 売却にかかる費用 | 仲介手数料・抹消登記費用などを売却代金から控除できる場合がある | 執行費用は債務者の負担とされ、売却代金から差し引かれる |
| 情報の公開 | 通常の売却情報として扱われる | 公告され、3点セットがBITで公開される |
| 期限 | 競売の開札期日の前日までに取下げが必要 | — |
※任意売却の費用控除や延滞損害金の扱いは債権者ごとに異なります。上表の任意売却欄は住宅金融支援機構の公表内容をもとにしています。
任意売却のメリット
- 一般的に競売より高く売れることが期待でき、残債を減らしやすい
- 引越しの時期を買主と相談して決められる
- 延滞損害金の減額の相談に応じてもらえる場合がある
任意売却のデメリット
- 抵当権者や差押債権者など、利害関係人全員の同意がないと成立しない
- 買主探しから決済まで時間がかかり、競売の日程との競争になる
- 債権者が認めた売出価格を下回ると、抵当権の抹消に応じてもらえない場合がある
どちらでも残債は残る
競売も任意売却も、売却代金で返しきれなかった分の借金は消えません。住宅金融支援機構のパンフレットも、任意売却による返済金が債権額に満たない場合、破産免責となっている方を除き残債務の返済義務は残るとしたうえで、その後の返済計画は生活状況を踏まえて決めるとしています。
残債3,000万円の家が1,800万円で落札された場合(計算例)
- 前提:保証会社への残債3,000万円、落札価格1,800万円、手続費用を仮に100万円とする
- 債権者への配当:1,800万円 − 100万円 = 1,700万円
- → 返しきれない残債:3,000万円 − 1,700万円 = 1,300万円(これに遅延損害金が加わる)
任意売却で同じ家をより高く売れれば、その差額だけ残債は小さくなります。売却価格の差が、その後の返済計画を大きく左右します。
競売の手続費用の目安として、東京地裁民事執行センターの予納金は請求債権額2,000万円以上5,000万円未満で100万円、差押登記の登録免許税は請求債権額の1,000分の4です。申立てをする債権者がいったん納めますが、執行費用は債務者の負担とされています(民事執行法42条1項、194条)。
資力を失っている場合の譲渡所得は非課税
家を売ると、利益が出れば譲渡所得税がかかるのが原則です。ただし所得税法9条1項10号により、資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難な場合の、競売などの強制換価手続による資産の譲渡所得は非課税とされています。
さらに所得税法施行令26条は、資力を喪失して債務の弁済が著しく困難で、かつ強制換価手続の執行が避けられないと認められる場合の譲渡で、その対価が債務の弁済にあてられたものも非課税の対象に含めています。
任意売却でも条件を満たせば対象になり得るため、売却益が出そうな場合は税理士や税務署に確認してください。譲渡所得の基本的な考え方は短期譲渡所得の記事でも解説しています。
- 任意売却は競売より高値・引渡時期の調整・費用控除の面で有利になりやすい
- どちらでも残債は残るため、売却価格の差がそのまま残債の差になる
- 資力を喪失している場合の競売等による譲渡所得は非課税
取下げは開札期日の前日まで|今からやること
債権者が競売を確実に取り下げるには、開札期日の前日までに取下書を提出する必要があります。任意売却は、決済をこの日より前に終えられるよう逆算して進めます。
競売の申立てを取り下げるのは、所有者ではなく申し立てた債権者です。所有者にできるのは、任意売却などで債権者が取り下げてよいと判断できる状況を、期限までに作ることです。
開札後は落札者の同意が必要になる
競売の申立ては、開始決定の後でも代金が納付されるまではいつでも取り下げられます。しかし買受けの申出(入札)があった後の取下げには、原則として最高価買受申出人または買受人と、次順位買受申出人の同意が必要です(民事執行法76条1項。188条で担保不動産競売に準用)。
そのため裁判所のBITは、確実に取り下げるためには開札期日の前日までに取下書を執行裁判所に提出する必要があると説明しています(BIT「競売申立ての取下げ」)。代金納付後は取下げ自体ができません。
任意売却の最終期限は「開札期日」ではなく開札期日の前日。しかも債権者の取下書提出までに、買主との契約・決済の見通しが立っている必要があります。
任意売却を間に合わせる逆算スケジュール
任意売却は、債権者の承諾を得る手続きに時間がかかります。住宅金融支援機構のパンフレットでは、次のような日数が示されています。
- 任意売却の申出と仲介業者の選定「任意売却に関する申出書」を提出。機構が債権回収会社に業務を委託する場合、委託までに通常3か月程度かかる。
- 査定・売出価格の確認仲介業者が価格査定書を提出し、債権者が認めた売出価格で販売を始める。
- 販売活動と購入希望者の決定初回の媒介契約から6か月たっても購入希望者が現れない場合は、競売手続に着手されることがある。
- 抵当権抹消の審査・売買契約・決済抵当権抹消に応じられるかの通知までに2週間程度。承諾後に売買契約を結び、決済と抹消を行う。
これらはあくまで1つの債権者の例ですが、申出から決済まで数か月単位の時間が必要になることがわかります。競売開始決定が届いてから動き始めると間に合わないおそれがあるため、督促や一括請求の段階で相談を始めるのが現実的です。
任意売却の進め方は任意売却の流れと期限の記事、残債が売却価格を上回る場合の考え方はオーバーローン売却の記事も参考にしてください。
今日から始めるチェックリスト
競売を避けるにしても、受け入れるにしても、まず手元の情報を整理することから始まります。次の項目を確認してください。
- 届いた書類(督促状・一括請求・代位弁済通知・競売開始決定)の日付を時系列に並べる
- 現在の請求先が金融機関か、保証会社・債権回収会社かを確認する
- 競売開始決定が届いていれば、BITや裁判所で公告の入札期間・開札期日を確認する
- 登記事項証明書で、住宅ローン以外の抵当権や差押えがないかを確認する
- 家を残したい場合は、代位弁済から6か月を経過する日までに個人再生の申立てが必要なため、通知が届いたらすぐ弁護士に相談する
- 売る場合は、家の現在の価格を把握し、残債との差額を計算する
共有名義の家では、共有者全員が売買に協力しなければ任意売却が進みません。共有不動産が競売に至る別のケースについては共有物分割請求と競売リスクの記事で解説しています。
よくある質問
競売開始決定が届いたら、すぐに家を出ないといけませんか?
すぐに出る必要はありません。差押えは債務者が通常の用法に従って家を使用することを妨げないため、買受人が代金を納付するまでは住み続けられます。ただし代金納付後は、引渡命令や強制執行によって退去を求められます。
競売を取り下げてもらえるのはいつまでですか?
確実に取り下げるには、申し立てた債権者が開札期日の前日までに取下書を提出する必要があります。開札で最高価買受申出人が決まった後は、その人などの同意がなければ取り下げられず、代金納付後は取下げ自体ができません。
自分の家の競売に自分で入札して買い戻せますか?
債務者本人は入札できません。民事執行法68条は、債務者は買受けの申出をすることができないと定めています。家を残したい場合は、競売になる前の段階で個人再生の住宅資金特別条項などを専門家に相談してください。
競売で家が売れたら、住宅ローンの残りはなくなりますか?
なくなりません。売却代金は手続費用などを差し引いたうえで債権者に配当され、届かなかった分は残債として返済義務が残ります。
任意売却でも同じですが、一般的に競売より高く売れることが期待できるため、残る金額を小さくしやすくなります。
競売にかけられたことは周囲に知られますか?
競売物件は入札期間などとともに公告され、現況調査報告書・評価書・物件明細書の写しは不動産競売物件情報サイト(BIT)で誰でも閲覧できます。任意売却も通常の売り物件として広告されますが、競売のように占有状況や室内写真を含む3点セットが公開されることはありません。
この記事のまとめ
- 競売は期限の利益喪失・代位弁済の後、裁判所の開始決定→現況調査・評価→期間入札→開札→代金納付→明渡しの順に進む
- 代位弁済から6か月以内なら、個人再生の住宅資金特別条項で家を残す道がある
- 公告は入札期間開始の2週間前まで、代金納付は売却許可決定の確定から1か月以内が原則
- 代金納付から6か月以内に引渡命令を申し立てられ、退去しなければ強制執行になる
- 任意売却は競売より高値・引渡時期の調整が期待できるが、どちらでも残債は残る
- 競売の取下げは開札期日の前日までが期限。督促・一括請求の段階で動き始める
競売を避けられるかどうかは、残された日数と家の価格で決まります。まずは今の家がいくらで売れるのかを知り、残債との差を確かめることから始めてください。